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「けど、まあ・・・・絵に本心を籠めたって、どうしようもないよな。 アイツは絵画に関心がないから、講堂の向日葵だって見てるか怪しいし」
「いや、見てると思うよ」
「え?」
不思議そうに首を傾げる吉岡を見て、ゆっくりと眼を細めた。
美術準備室の前で自分たちの会話を立ち聞きしていた三宅。
あれは、吉岡に会いにきていたんだろう。
きっと、本当の意味を知りたくて・・・・。
「向日葵の絵はもちろんだけど、アネモネの絵も・・・・三宅は見てるよ」
確信がある。
絶対、三宅はあのアネモネの花を見ている。
吉岡は自分を凝視したまま固まって、それでもすぐに首を振って、ありえないと笑った。
「そんなことあるわけないじゃん。俺、あの絵は誰にも見せてないんだ。いっただろ? 完成した絵を見たのは、この学校で顧問と校長と都築だけだって」
「美術館には飾ってただろ?」
「なにいってんだよ。あそこまでどれだけの距離あると思ってんだよ。電車で二時間だぞ? 授賞式で一回だけいったけど、ホント遠いんだぜ?わざわざあんなとこまでいくのなんて相当の物好きしかいないって」
吉岡は呆れたように、息を吐きながら、身体を起こして胡坐をかいた。
「アネモネだって知ってたんなら、美術部のヤツに聞いたんじゃないの?」
「美術部の部員が見たのは下絵の段階だけだろ?」
「まあ、そうだけど・・・・」
蛍の話では、吉岡はすべて美術準備室でアネモネを描いていたらしい。
数名がその絵を覗き見たらしいけど、結局はアネモネの花だということしかわからなくて、 完成した絵は見ることが叶わなかったと、美術部の友人がぼやいていたといっていた。
「三宅は、赤と白のアネモネだってことを、知ってた」
「・・・・」
吉岡の瞳が僅かに揺れたのが見えた。
三宅は美術館まで見にいったのだろう。
吉岡の絵を・・・・。
向日葵の絵同様、講堂に張り出される可能性だってあるのに、三宅はわざわざ電車に揺られて見にいった。
きっと、そういうことなんだろう。
吉岡が伝えたかったこと、それがなんなのか、三宅も気づきたかったのかもしれない。
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