アネモネの想い

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 バタン、と扉の閉まる音が響く。  扉の向こうの二人の姿を思い浮かべて、その扉に向かって静かに微笑んだ。  白いアネモネは、自分を見つめる赤いアネモネの存在に気づいたんだろう。  もしかしたら、白いアネモネも、なにかを探していたのかもしれない。  いまとなっては、もうわからないけれど。  歩きながら少し傷のついた本の表紙を撫でた。  ただでさえ古い本なのに、今日だけで新しい傷が増えてしまったような気がする。 「丁寧に扱ってね、っていったはずなんだけどなぁ」  まあ、人のことはいえないか、と苦笑を洩らして、その本をパラパラと捲った。  吉岡は今度はどんな花を描くのだろう。  きっと、前よりもっと見るものを惹きつける絵になるだろう。  鮮やかで美しくて、そして幸せそうな・・・・そんな絵に。  まだ見ぬ作品を思い、きっと自分は蛍同様、吉岡のファンになってしまったんだろうな、と小さく笑った。
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