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「・・・・俺も花を育てようかな」
ぽつりと呟くと、真人が顔を上げて小さく苦笑を洩らした。
「なんだよ、急に」
「今回のことで思い出したんだ。祖父の庭に咲いていた花を。あの花をもう一度見てみたい」
そういって穏やかな笑みを浮かべると、真人はゆっくりと眼を細めて「へえ」と呟いた。
「ちなみになんの花だ?」
「アネモネ」
「アネモネ?・・・・どんな花だっけ」
「赤い花だよ・・・・咲いたら真人にあげる」
そう、吉岡のおかげで、葉月の言葉を思い出した。
大切な人に贈る花。
いつか誰かに贈るのよ、といっていた葉月の言葉。
アネモネがわからないのか、本をペラペラと捲っている真人に笑みを零して、鞄を手にとった。
その花を贈りたい人は、たった一人だけ。
きっと、これからも、それは永遠に変わらないんだろうな。
ガラガラ、と静かな校内に、ドアを開ける音が響く。
ちらりと振り返ると、赤いアネモネの写真を見つめて、穏やかに微笑む真人が見えた。
真人は気づくだろうか。
赤いアネモネが告げる深い意味の言葉に。
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