アネモネの想い

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「ねえ、次の授業ってなんだっけ?」  生徒が行き交う食堂前の通路で、自動販売機にお金を入れながら、悟が顔を上げた。 「生物じゃなかったっけ?そんで、最後が数学」 「生物かぁ~~・・・・化学ならよかったのにぃ」 「なんでだよ?」 「化学は実験だから眠くなんないだろ?」 「なるほど」  笑う祐一郎に緑茶の缶を差し出して、悟はもう一度お金を入れた。 「智紘はなにがいいんだっけ?」 「いちごみるく」 「ミルクティじゃないの?」 「冷たいミルクティは邪道なんだってよ」 「なにそれ~」  ケラケラと笑う悟から、いちごみるくのパックを受け取ってそれを手の中で転がした。  いつだって甘ったるい飲み物を口にしている男の顔を思い出し、おもわず顔が緩む。  もう片方の手に握られているのは自分のブラックコーヒーで。  これだけを見比べても自分たちはあまりにも対照的だと思うこともある。  けど、智紘は決してコーヒーが嫌いなわけではなく、というかむしろ好きらしい。  甘い飲み物を好むくせに、コーヒーはブラックという拘りさえある。 「なに思い出し笑いしてんだよ。気味が悪い」  隣に立っていた祐一郎が、そんな自分の顔を見て僅かに眉を寄せた。  自動販売機にお金を入れておいて、なにを買うか迷っているらしい悟は、後ろに並んだ他の生徒の迷惑そうな顔に気づくことなく、 ピカピカと光るランプを何度も押しかけては止めてを繰り返している。  さっさと選べ、とばかりに足を軽く蹴飛ばして、食堂から流れてきた生徒で混み始めた自動販売機の前を離れた。  同じように自分の隣を歩きながら、祐一郎が「そういえば」と呟いた。 「智紘が最近真人に変なもんばっかり食わされるっていってたけど」  なんかのゲームでもやってんの?と、祐一郎が可笑しそうに笑った。 「ちげーよ」 「じゃ、なに?いっておくけど智紘に美食家は向いてないよ」 「そんなことはわかってる」  あれだけ食に関心の薄い人間に美食家はないだろう。  おもわず苦笑を洩らして、手の中のいちごみるくを指でなぞった。 「まあ、一番わかりやすそうなところから責めてみようと思って」 「は?」  いったいなんのことだ、とばかりに祐一郎は首を傾げた。
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