アネモネの想い

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 すべてを知りたいと思っていても、まだまだ見えない部分も多い。  知っているつもりでも、まだまだ足りない。  まるで宝探しのようだ、と思う。  少しずつ、少しずつ、なにかを掴み取っていく。  意外な一面だったり、些細な癖だったり、時折見せる熱い眼差しだったり。  新しい発見があるたびに、その存在の証が自分の中に刻み込まれていく。  すべてを開拓するにはまだまだ時間がかかりそうだけど、それでもこんな関係がとても心地よかったりする。 「あーー!もう!なんで置いていくんだよッ!」  バタバタと騒々しい足音を立てながら、悟が自分たちの間に割り込んでくる。 「おまえが遅ェからだろ」 「だってさ、オレンジジュースも捨てがたいしココアも捨てがたいしさぁ。けど咽渇いてるときにココアってちょっとキツイよね?」 「知るかよ」  くだらない、とばかりに呆れ顔を向けると悟はブーブーと文句をいいながら、 散々迷った挙句に選んだらしいスポーツドリンクのキャップを捻った。 「そういえば、智紘どこいったんだっけ?」  悟を宥めながら、祐一郎が思い出したかのように呟いた。 「職員室。担任のとこ」 「あぁ、アイツ今日当番だっけ」 「あれだろ、進路希望調査。今朝提出されなかった分、集めて持っていくって」 「あー、あれか・・・・真人、真面目に書いた?」 「いや」  全部未定で埋めた、と答えると祐一郎はやっぱりとでもいいたげに笑った。 「俺、一応進学って書いたんだけど、やっぱなんだかしっくりこないんだよね。まだ二年だし焦りがないよな」 「まあな」  本当なら進学するにしても就職するにしても、いまからの準備が必要なのだろうけれど、 学校側の願い空しく、生徒というのはあまり危機感がない。  なにも考えていないわけではないけれど、焦るほどの問題でもないっていう程度。  たしかに真面目に準備を進めるヤツらもいるけれど、将来の夢や希望を見出せないヤツらも多いってわけだ。
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