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「あいかわらず早起きだな。じじいか。もう少し寝かせとけよ」
あくび混じりに、神様は悪態をつく。
「人間たちはもうとっくに起きてるよ」
別の穴からのぞく目に映るのは、路地の前をひっきりなしに通り過ぎる足、足、足……。
「あいつらは眠らないんだよ」
神様はよく言うけど、本当にそうなのかもしれない、って時々思う。
だって、ボクが眠りにつくまでと、目覚めてから。
あの足が一切なくなることなんて、一度だってない。
ここは、小さな、小さな、稲荷神社。
一階に外国人バーが一軒入っているだけのボロいビルと、安いラブホテルの間に挟まれた路地の、いちばん奥。
申し訳程度に屋根の付いた、崩壊寸前の社だ。
そんなだけど、一応「縁結びの神」だとか呼ばれていて、酔っ払いの冷やかしだとか、面白半分の女子高生とかが、たまに足を踏み入れてくる時がある。
まぁ、本当にごくまれに、なんだけどね。
ボクは、いわゆる稲荷キツネってやつで。
この社が出来た当初からここを護る神様に、子供の頃から仕えている。
ボクは、鼻を引っ込めて後ろを振り返った。
社の隅っこで、白装束の、はた目には十六~十七歳のうるわしき美少女が、こちらに背中を向けて尻をボリボリかいていた。
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