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ひらりと無気力に手をふって、坂へと足を出したときだった。
別に高いヒールを履いていたわけでもないのに、ぐにゃりと身体がバランスを崩す。右足の着地がおかしくて変に捻ったらしい。コンクリートの無慈悲な坂へと崩れ落ちていく。
「ひゃあああっ!?」
「由依!」
ガッ、と強い力で私の腕掴まれる。想像を絶する強さだった。宙ぶらりんみたいな私の身体は重力による直撃を免れ、すとんと静かに腰を落とした。
何が起きたかわからないが、左腕は未だにしっかりと掴まれている。私は信じられない気持ちのままその方向を見上げた。
「……あり、がとう」
「や、……別に」
何とも言えない、気まずい空気が流れる。カッコ悪い。でもそれだけじゃない。それだけなら、いつもみたいに笑いにして踵を返せばいい。茶化すことができなかったのは、真剣な彼の「声」がこびりついて離れないから、だと思う。
「名前」
数拍の沈黙の後、やっと言葉が出る。
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