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〔2〕
予想したとおり十五分ほど曲がりくねった細い峠道を降りると、突き当たりが左右に分かれたT字路になっていた。
そこには、ちょっとしたパーキングスペースがあり、おそらく天気の良い日には美しい湖を見ることが出来るのだろう。先導していた緒永の車が停まったのが見えて、アキラもその横に車を付けた。
「ここで待つように言ったんだが……優樹はどこに行ったんだ? バイクはあるな」
車から降りた緒永が、遼に向かって苦笑する。
「仕方ない、私は向こうの側道を見てこよう。湖を観に行ったのかもしれない」
「あ、じゃあ僕はこっちを探してみます」
緒永と反対方向を見回し、遼も車から離れた。
霧に閉ざされた向こうから、微かに水の気配がする。
腰の高さほどしかない、自然木で作られた柵の下でクマザサが風にざわめき、ひたりひたりと水音が重なった。
柵から離れると、方向が解らなくなるほど霧が深い。もしかしたら優樹も迷ってしまったのだろうか?
ふと、そんな不安が頭をかすめたとき、柵に引っかけられたヘルメットを見つけた。優樹の姿はない。
「優樹?」
声は霧に吸い込まれる。
「優樹!」
さらに大きな声で、遼は呼んでみた。すると白いカーテンの向こうから、人影が近付いてきた。
「……優樹?」
「よっ、遅かったな」
姿を現した篠宮優樹の事も無げな言い方に、遼は眉をひそめた。
「皆が心配している」
「え? そうか? 霧ならじきに晴れるよ」
「霧の事じゃなくて、君が……」
遼が言いかけたとき、湖から冷たい風が吹き渡った。幕が引かれていくように霧は左右に分かれ、エメラルド色をした湖水が眼前に広がってゆく。
「ほら、な?」
まるで自然を味方に付けているような優樹の勘の良さを、遼は知っていた。だから心配などしていなかった。
しかし他に心配をかけるような行動を、親友として見過ごすわけにはいかない。
「ほら、な、じゃないだろ? 緒永さんが探してる。ここから先は道が解りにくいそうだから、おとなしく付いて来ないと本当に迷うよ?」
「わかった」
緒永の名を出され、優樹も従う気になったようだ。反対を押し切ってバイクに乗ったことを、少しは悪かったと思っているらしい。
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