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「向こうの藪に何かいたみたいです。ウサギか何かじゃないかな?」
「ウサギなら、もう体毛は茶色になっている。白っぽく見えて熊と間違えるくらいの大きさならカモシカかも知れないね、背中の体毛が銀白色に見える奴もいるから……。時々この辺りまで下りてくるんだよ」
優樹が何か言いたげな表情で顔を向けたが、遼は小さく首を振った。
あれは熊でも、カモシカでもない。ではいったい、何だったのか?
「さあ、ここまで来ればもうすぐだ。高速を降りたときに電話してあるから親父が今頃イノシシ鍋を用意して待ってるよ」
「……イノシシ鍋?」
複雑な顔をした遼に、優樹が笑う。
「おまえ、そういうのダメなんだよな。俺は緒永さんから美味いって聞いてるから、楽しみにしてたんだ。あ、それから妹さんが得意だって言うウサギのシチューに蜂の子の炊き込みご飯も」
「……ウサギ? 蜂の子?」
緒永に悟られまいとしながらも、ざわつく肌を抑えられない。
「こら、遼君をからかうんじゃない。心配いらないよ、他に食べ物がないわけじゃないから」
「はあ……」
面白がっている優樹を遼は睨んだ。
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