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遼も談笑に加わりながら荷物を車から降ろし始めたが、ふと視線を感じ山荘を見上げた。
二階の窓から、誰かがこちらを見ている?
「どうかしたのか?」
優樹が気付いて声をかけた。
「二階に女の人が……」
訝しげに眉を寄せ、優樹も二階を見上げる。
誰もいない。
問いかける優樹の視線に、遼は首を傾げた。
遼には、普通の人間には見えないものが見える。優樹を始め、何人かの友人達はそのことを知っていた。
幽霊、とは言いはばかられるが、近いものだ。過去にその場所で死んだ、生き物の残像。焼き付いた意識、想い、そして恐怖……。
この力を持つが為に、幼い頃から両親を困らせ泣かせてきた。友人に気味悪がられ、虐められ、阻害されて苦しんできた。
しかし、孤独だった遼を救ってくれたのが優樹だった。
優樹の母親は、意識のないまま十年以上も大学病院に入院している。遼の母親が看護師として数年担当したことが縁で、優樹の伯父であり現在の保護者である田村と家族ぐるみの付き合いをするようになった。
正義感が強く体格の良い優樹は、幼い頃から習っている剣道も有段者で常に遼を守ってくれる存在だ。傲らず、差別無く、対等で優しい友人。
時に煩わしさを感じるほどに……。
「多分気のせいだよ……行こう、皆が待っている」
何か言いたそうな顔の優樹に背を向けた遼は、荷物を肩に担いで山荘に向かった。
リビングに荷物を置き、満彦に招き入れられて食堂に入ると五つある四人掛けのテーブルのうちの三つに食事の用意がしてあった。
テーブル中央の卓上コンロには湯気の立つ土鍋がかかり、食欲を誘う良い匂いをさせている。
「すぐに夕食の支度が出来ますから、部屋は後でご案内します。去年の狩猟期にでかいイノシシを仕留めましてね、いつもはうちのシェフがフランス料理をご用意するのですが、今日は私が腕を振るいました」
自慢するように、満彦が銃を構える真似をする。
「ボタン鍋はみそ仕立てで、煮込んだ方が旨いんだよ。早速いただこうじゃないか。須刈くん、佐野くん、轟木くん、ビールは?」
「もちろんいただきます」
冬也が聞くと、間髪を入れずに答えた佐野が苦笑するアキラに目配せした。
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