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「佐野は酒癖悪いから、ほどほどにしておけよ?」
アキラの忠告に、「大丈夫、大丈夫」と生返事を返し佐野がビールを取りにいこうとすると、いち早く席に着いていた優樹が立ち上がる。
「あー先輩、オレ手伝います!」
「君はダメだ、後輩の前だよ」
あわよくばと思ったらしく、仲間に加わろうとした優樹を遼がいさめた。
「ちぇっ、おまえ頭固すぎ」
「固くて結構」
「イノシシ、食えないくせに」
「関係ないだろ、そんなこと」
優樹の嫌みに、遼は顔を赤らめる。
「ああ……そうだった。父さん、遼くんはイノシシがダメなようだから他の物を用意できないかな?」
やりとりを聞いていた冬也が、ビールを持って厨房から出てきた満彦に向かって声をかけた。
「おお、そうか、それは悪かったね。おい美月、イノシシがダメな子がいるそうだから他の肉を用意してくれるか?」
「あっ、いえっ、食べられます……」
慌てて否定した遼に、満彦が笑う。
「無理しなくて良いんだよ、山肉が苦手な人は結構いるからね。現に娘の美月も苦手で、シカ肉なんかは見るだけで真っ青になる。カモやウサギは可愛そうだといって口にしないしね」
「それはお父様がいけないんです」
咎めるような口調がしたかとおもうと、厨房からトレーを持った若い女性があらわれた。
「自家製ローストポークよ。これなら大丈夫かしら?」
テーブルに置かれたディナー皿には、ワインの香りのアップルソースが添えられたローストポークが、色とりどりの温野菜と一緒に美しく盛りつけられていた。
「あのっ、わざわざすみません。すごく美味しそうだ」
礼を述べて顔を上げると、白いシャツとジーパンの上から丈の短い黒いエプロンをした優しい顔立ちの女性が、安心したように微笑んだ。
「あっ……」
窓から見えた女性だ。
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