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「何かしら?」
「さっき、二階の窓から僕等を見ていましたか?」
「ええ、見てたわ。ごめんなさい、兄さんのお客様がどんな方達なのか気になっていたの。気を悪くした?」
「いえ、そんなこと、全然」
戸惑いがちに答えながら、遼は安心した。どうやらヴィジョンを見たわけではないらしい。優樹も納得顔で、こちらを見ている。
厨房に戻る美月の背を見ながら冬也は、困ったように笑った。
「美月が小学校三年の時、父さんが山ウサギを生きたまま捕まえてきたんだ。翌日の朝そのウサギに餌をやって、すっかり自分で世話して飼うつもりでいたのに学校から帰るとシチューになっていた。あの子は一晩中泣いて、一ヶ月くらい父さんと口を利かなかったんだよ。しかしどうにか食べるために狩るということを理解してくれて、今では業者の持ってくる肉なら自分で料理する事も出来るようになった。決して口にはしないがね」
冬也の話に満彦は決まり悪そうな顔をすると、頭を掻きながら姿を消した。
「さあ、さあ、食事にしよう。これ以上待たせたら優樹が暴れるかも知れないからな」
「人のこと、熊みたいに言わないでくれよ。ひでぇなあ、緒永さん。遼、おまえの分は俺が食うから安心していいぞ」
「後輩の分まで取るなよ」
聞こえ無い振りをする優樹に、遼は苦笑した。
自分から行動出来ないとき、いつも優樹は助けてくれる。わざとからかうような事を言い、遼の苦手なものを遠ざけてくれたのだ。
美月が白飯を配り終え、緒永達がグラスを鳴らした。我先にと鍋をつつく優樹や後輩達を前に空腹感をおぼえた遼も、割り切れない感情を振り払って箸を手にした。
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