序章『魄王丸』

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 今宵は新月。ぬばたまの夜、訪れ来たる。 里村人も都人も、淀みたる闇の中、息をひそめ、針ほどの灯も洩らすまいと戸を堅く閉ざしたり。 その狭間、一頭の獣、空を駆らん。  猛々しきその姿、爛々たる双眼、闇を裂きたる黄金色の鬣、その爪一撃のもとに岩をも砕く。  焔を吐き人肉を喰らい、雲を呼びいかずちを放つ。  人々これを恐れ、あまたの勇者討ち果たさんと挑みたるが叶わず。  これなるは雷獣、『魄王丸』と人の呼ぶ。
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