第1章

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〔4〕 『美月荘』には、本棟である山荘にツインの洋室が三室、他にログハウス風のコテージが二棟ある。  そのコテージのうち3LDKの大きい方を遼たち男子が使い、もう一方の2DKの方を明日、電車で来ることになっている女子達が借りることになってた。  田村杏子と村上琴美、牧原美加、琴美の姉の黎子の四人である。  田村杏子は『ゆりあらす』オーナー、田村夫妻の一人娘で同じ叢雲学園の二年生。田村が優樹の母親の実兄に当たるため優樹にとっては従妹になるが、一緒に行きたいと言い出された時、優樹はかなり不満顔だった。  しかしアキラを始め、他の男子が歓迎するのをみては渋々でも承知せざるを得ない。  一人娘に泊まりがけの旅行に行きたいと言われ田村はかなり動揺したが、杏子の親友である村上琴美の姉が同行することになり願いは聞き届けられたのだった。  食事の後コテージに案内された遼は、気付かないうちにリビングのソファーですっかり寝入ってしまった。  ドライブ中は意識していなかったが、車中で一睡もしていない疲れが出たようだ。  肩を揺する手に、うっすらと目を開けると優樹が顔を覗き込んでいる。 「風邪引くぞ、寝るなら部屋で寝ろよ」 「んっ? ああ、寝ちゃったんだ」 「そりゃあ、もう、風呂いくぞって声かけても返事もなかったぜ。目が覚めたんなら本棟の風呂に行ってみたらどうだ? 遥斗と宙と一緒に行ってきたけど、露天風呂があって気持ちよかった。俺達と入れ替わりに今先輩達が行ったところだよ。結構飲んでたから心配だな」  優樹が持っているのは、近くの牧場から届けてもらっているという牛乳だ。一リットル入りのガラス瓶だが、もう一口しか残っていなかった。あれだけ食べて、まだこれだけ飲める事が遼には信じられない。 「この牛乳、美味いぜ。美月さんがくれたんだけど、館山の牧場で飲んだのと似たかんじかな?」 「……熊」 「なんか言ったか?」 「何でもない。ところでその美月さんという人、綺麗な人だよね」  突然、優樹が牛乳にむせて咳き込んだ。
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