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遼は自分の荷物が置かれたベッド側に着替えを出し、服を脱ごうとして窓が開いていることに気付いた。おそらく暑がりの優樹が開けたに違いないが、本人は既にトレーニングウェアのままベッドに大の字になっている。
「風邪引きそうなのは、君の方だ」
呆れたように呟いて、遼は窓を閉めカーテンを引いた。
が、ふとカーテンの隙間から本棟二階に目を移す。一階は窓から明るい光が外まで漏れて人の動く影を見ることが出来たが、二階は真っ暗だ。ここに着いたとき、美月が立っていた窓も本棟の宿泊客のない今日は当然、人の気配はない。
食堂で見た美月は、二階の窓から見ていた女性と確かに同じ人物だった。肩までの明るく染めた髪、白いブラウス。優しそうな顔立ち。
(何だろう? 何か印象が違って見えたんだけど……)
あるいは夕闇が迫る時間帯と、ライトアップされた建物のせいかもしれなかった。深く考える必要も無いのだろうが、どこか陰りがなかったか……。
「ねえ、優樹。君が……」
優樹の感じた印象を聞いてみようとして、遼は声をかけた。が、諦めて肩をすくめる。
優樹はとうに、夢の中だった。
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