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◇
都を離れ、この里に来てもうどれほどになろうか。
庵の周りを、涼しげな美しい若葉で彩っていた楓、錦木、紙八手、柊、銀杏は、葉を落とし頼りげない幹を寒空に晒すようになり、代わりに燃えるように色づいた紅葉が恐ろしいほどの緋色で山々を覆い尽くす。
「この緋き色は我が心。燃えたぎる我が血潮。戦えぬ、この身を呪う我が焦り……」
園部兼光は傷まだ癒えぬ右足に血の滲むほど爪を立て、口惜しさに歯噛みした。
時は応仁元年。京の大飢饉の後に始まった大乱これを、応仁の乱という。兼光の父実光は、東西に分かれて戦う両軍のうちの西軍、山名宋全に味方し東軍の細川勝元と戦う大名の一人であった。そして六月八日の一条大宮の戦いに父に代わって赴いた兼光は、山名教之の下、赤松政則の勢に敗れ深手を負ってしまったのである。まだ二十三歳という若さ故、傷の治りは早い。だがどうにもこの右足が思うように動かないのだ。
八月下旬になって周防の国の大内政弘が入京し、西軍は優勢になりつつある。今こそ総力を結集し、一気に東軍を攻め潰さねばならぬ時なのに。
「兄上、そろそろ風が冷たくなってまいりました。中にお入りにならないと」
「ああ、美那か」
柘植の垣根越しに顔を覗かせた妹が目に入ると、兼光は先ほどまでの厳しい顔を途端にほころばせた。
兼光の兄弟は七人。上に姉が一人、下には弟が一人と妹が四人いる。美那はその一番下の妹で、今年十五歳になったばかりであった。今は兄の身の回りの世話のため、この庵に一緒に住んでいる。
「そういえば今夜、柏原殿が戦局を報らせに来られるはずだな。どうりで美那も楽しげにしておるわ」
「いやですわ、兄上ったら」
からかうように言うと、美那は顔を赤らめ小走りに庵へと戻っていった。
その夜、暮六ツ半頃になってようやく義時がやって来た。
柏原義時は園部の家老衆の中でも一番の力を持つ柏原正義の一人息子で、兼光よりも一つ上の二十四歳。武勇誉れ高く目もと涼しき好青年であった。
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