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「またね・・・」
そう彼女は別れ際に言葉を残して、電車の扉の向こうで素敵な笑顔を印象付けながら、俺と別れた。
それが彼女との最後に交わした言葉。
そんな彼女は、もうこの世には。
俺の時間はあの時から止まったまま。時計の針を動かしてもらいたい。一歩前に進ませる勇気をもらいたい。
そんな事を願っていながら、俺は前に進めずにいる。
今朝もまた、6時に携帯のアラームが鳴った。仕事に行く前にあいつを起こす時間。
あいつ・・・。
河合由美子を起こす時間。でも、あの日にあいつは僕の前から消えた。消えてしまった?。
由美子と別れたあの日の夜、彼女は自宅マンションから飛び降りた。
それを聞いた時、俺はこれ以上無い嗚咽でむせび泣いた。
彼女との最後の別れは寂しいもの。俺と彼女とでは年の差がかなり離れている。
彼女の両親からは警戒されていた。俺が顔を出せば、真っ先に俺に彼女が飛び降りた原因があると責めてくる。
それが怖い訳じゃない。俺が行くことで、あいつの・・・、由美子の秘密が世間にバレてしまう。それだけは隠したい。隠し通したい。
『そうか・・・。隠せばいいんだ・・・』
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