おむかえ

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「これで何人目の犠牲者だ・・・」 「今月に入って4人目です。先月から数えて6人目です・・・」  刑部(おさかべ)は額に浮き出た汗を拭いながら、目の前で仁王立ちする先輩刑事の益田に答えた。 「何だって、こんな田舎町で妊婦だけを狙った誘拐殺人が発生するんだ。第一、犠牲者の妊婦達は他県にわたっている。こんな田舎町の住人じゃないぞ。しかも、遺棄されているのがこの町にだけと言うと、町の評判が下がる一方だ!」 「益田さん・・・」と刑部が顎と視線で規制線の向こうをアイコンタクトで示す。 「あれ、本庁捜査一課じゃないですか?」と刑部が視線をその先に向ける。  数台の車が田畑の間を抜ける農道をゆっくりと走って来るのが、益田の目にも止まった。 「本庁のご到着か・・・。今日はやけに早いな・・・」 「皆さん、署にお泊りですから・・・」と刑部は皮肉を口走った。 「高い飯を食っているんだろう?しっかりと休めていいな」 「その分、早く事件を解決してもらいたいですね・・・」と刑部は皮肉った。  警視庁捜査一課の探玄班が車から降りてくる。  刑部と益田は初動捜査班の刑事として、真っ先に報告するために近づいていく。  探玄は敬礼をしてきた刑部と益田に軽く右手を挙げて挨拶をすると、「被害者の状況は?」と質問してきた。 「被害者氏名はまだ判明していませんが、どうやら、妊婦のようです」 「身元を示す物は何も無いか・・・」と探玄は唇を右手で触りながら、草むらの上に無造作に横たわる被害者を検分し始めた。 「左腕と腹部に注射痕と裂傷はあるのか?」 「はい」と検視中の鑑識員が袖を捲った。  被害者の左腕の肘辺りと腕の辺りに赤い斑点が見られる。 「直ぐにガイシャの身元を洗い出せ!付近の住民に聞き込み!不審者、不審車両、それと必要なら令状をとって家宅捜査だ」  探玄が声を張り上げて捜査員に指示を出した。  刑部と益田も聞き込みに行くために、班割の輪の中に入る。  二人の担当は町の南側、工場が立ち並ぶ一角の集落があてがわれた。
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