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オリエンテーリング開始の合図が響き渡った。
賞金を目指して走り出すチーム。楽しそうに話しながら歩き出すチーム。
そして、全く動かないチーム・メガネ。
「山田、後ろにある箱は何だ?」
佐藤の問い掛けに、山田のメガネがキラリと光る。
「これは、本日の為に用意したハンググライダーです。このオリエンテーリング、一番早くチェックポイントに着くには?」
「そうか、空路と言いたいのだな」
山田はニヤリとして、箱から出したハンググライダーを装備した。そして、近くの丘へと登り始める。
「よし、高橋! 統計学を利用して、我らの勝率を述べよ」
「お任せを」
統計学とは、バラツキのあるデータから応用数学の手法を用いて、数値上の性質や規則性、あるいは不規則性を見いだす方法。
膨大なデータを有する高橋は、小型のノートパソコンを取り出して計算を始めた。
「出ました。我々の勝率は、158%です」
……
……
「……158%? 聞かない数字だな」
「山田先輩が動けば、勝率は100%……そして、この山では稀に突風が吹きます。その神風に乗れば100%を超える奇跡が見られるでしょう」
佐藤は微笑み、高橋の頭を撫でた。
まだ幼さの残る高橋は、可愛らしい照れた笑顔を見せる。
その間に、山田は丘の頂上で角度を計算していた。
「この角度……そして、このタイミング……今だ!」
山田は勢いよく丘から駆け下り、最高のタイミングで宙に舞った。
優雅にして素早く、一直線にチェックポイントへと突き進む。
さらに、山田を祝福するかの如く神風が吹きつけた。
そして、遠くへと飛ばされてしまった。
「山田先輩!? そうか、突風が吹く方角を計算に入れてなかった……申し訳ございません、佐藤リーダー」
頭を下げる高橋に対し、佐藤は怒るどころか余裕を見せる。
「誰にでもミスはある。本当に必要なのは、次に活かせるかどうかだ。それに、山田は凄い男だ。あれぐらいのトラブルなど、すぐに解決して我々と合流するだろう」
「リーダー……」
メガネに後悔の涙は似合わない。
全員が山田の飛んで行った方向へと敬礼する。
「山田……またな」
山田の復帰を誰も疑わず、チーム・メガネはようやく走り出した。
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