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一つ目のチェックポイントを通過し、走り続けるチーム・メガネは池に辿り着いた。
池のすぐ上には、三本の吊り橋が架かっている。
一つ目は大きく安定した吊り橋。
女子社員の多くが、おしゃべりをしながら渡っている。手を伸ばせば池の水に触れる事もでき、「冷たいねっ」と、はしゃぐ姿が楽しそうだ。
二つ目は普通の吊り橋。
賞金を狙う、勇気ある社員が駆け足で渡っている。
三つ目は人がギリギリ通れる狭さの吊り橋。
ゆっくりと慎重に歩を進める人がいるようだ。
「逆転できるチャンスですね」
「鈴木、何か考えがあるのか?」
鈴木のメガネがキラリと光る。
「狭い吊り橋を見て下さい。他は人で埋まっていますが、あそこは一人だけです」
「そうだな。だが、その一人が道を塞いでいるぞ?」
「私の華麗な動きでかわし、そのままゴールして見せましょう。……高橋、勝率を計算して述べてみろ」
「お任せ下さい。先輩の勝率は……出ました。127%です」
ククッと笑い、鈴木は眼鏡を人差し指でクイッと上げる。
「100%の勝利は当たり前。残りの27%の奇跡をお見せしよう」
鈴木は走り出す。
そして、あっという間に前方の人物へと追いついた。
「邪魔だ!」
スピードを緩めずジャンプし、前にいる人物の頭に手を置いて、飛び越えようとする。
その人物は、カツラの伊藤課長だった。
カツラがずれてバランスを崩し、カツラと共に池へダイブする鈴木。
「鈴木―――!」
佐藤の声が響き渡る。
その声が届いたのか、鈴木は必死に泳いで橋へと手を掛けた。
「まだだ! まだ、沈むわけには……」
それを見下す伊藤課長。
「最近は真面目に働いていると感心していたが……次のボーナス査定、楽しみにしていたまえ」
「ぐはっ!」
課長のカツラを握りしめ、鈴木は池の底へと沈んで行った。
「先輩!?」
助けようと動く高橋を、佐藤が無理やり引き留めた。
「あいつは助けを求めるような男か!?」
「はっ! ……そうだ。鈴木先輩なら、自分が犠牲になっても仲間を前へ進めるはず……」
「あいつは不死鳥だ。必ず蘇って、私達の下へ駆けつけるだろう」
佐藤達は鈴木の復活を願い敬礼する。
「鈴木……またな」
そして、一番大きな橋を普通に進んだ。
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