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自分に充てられた部屋に荷物を運び、ドアを閉める。
客室として使っていたという部屋はとても綺麗で…
使いふるされた、たった一つの鞄にまとまってしまった私の荷物はこの部屋に不釣り合いに思えた。
「…母さん」
メグミさんは母のことをああ言ってくれたけど、恐らくあれは嘘だろう。
お茶を飲む直前、私に母のことを訊かれたメグミさんの表情が一瞬だけ、ほんの一瞬だったけど、強張ったのを私は見てしまったから。
…そもそも母さんが私のために他人に頭を下げるはずがないじゃない。
「今更何を期待したのよ…っ」
期待したら駄目。
あの人に母親らしいことを求めてはいけない。
これまで何度も期待して、その度に裏切られたのに…。
でも、いつかは…、いつかは私のことを愛してくれるんじゃないかって…
今までごめんねって、力一杯私を抱き締めてくれるんじゃないかって信じてきたから…
「…ぅ、かぁ、さんっ」
…でも、もう本当にやめよう。
もうあの人に期待しない。
これからは一人で生きていこう。
「もう…信じない…。期待しない…」
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