第1章

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「またな」 あいつはそう言って、改札に消えていった。 一方の私は、私の中の何かが崩れてしまわないよう取り繕うのに必死で、結局なにも言えなかった。 せめて、ちゃんと笑顔で送り出せていただろうか?その答えはあいつしかわからない。 もうあの別れから5年経った。「人々を救う仕事につく」ことが夢だといつも話していた。私は浅はかにも、こんな田舎にいながら人々を救うのか、すごいなあ、なんて暢気なことを思っていた。 なんの教育施設も研究施設もないこの町に留まるはずがなかったんだ。 一緒についてこい、なんて言われてみたかった。もしかしたらそれとなく言われたのかもしれないが、今となっては思い出せない。 でも、叶うかわからない夢に私を巻き込むようなことは、きっとしない性格だった。変なところで真面目なやつ。 昔も今も、はっきりした夢のない私は、バイトをしながら実家で暮らしている。 親も暢気なもので、「定職につけ」や「結婚相手を見つけろ」などとは言わない。血筋かな。 バイトの無い日はネットサーフィン(田舎でもネットくらいはある)をして人生を潰している。 今日もまた、動画サイトをさまよいながら、小学生の夏休みのような日を過ごしていた。 「あなたの思い出を、鮮明に……?」 ふとした拍子に目に入った広告のフレーズだった。 メモリーバンク、と書いてある。 「写真のデータ化の宣伝かな?」 もはや写真を現像して保管している人なんてわずかなものだ(うちの親がそのわずかに入る)。 ちょっと気になってクリックしてみた。私はすぐに後悔した。 「ありがとうございます!おなじみメモリッチでございます!」 私はすぐにパソコンを閉じた。
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