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その日、雪が降り出したのは、陽も傾き始めた頃のことだった。 店の戸締りに立った柊平は、すりガラスの向こうの白さに気づき、建付けの悪くなった戸をガラガラと開けた。 「寒いと思ったら…」 店の前の冷えた道路に、舞い降りる雪が解けることなく積もっていく。 この辺りで積もるほど降るのは、かなり珍しい。 「柊平!早く閉めてよ!寒い!」 雪の降るさまをじっと見ていた柊平の背中に、夜魅の悲鳴が届く。 猫又と言えども基本は猫らしく、やはり寒いのは嫌いなようだ。 柊平は古く煤けた鍵を回し、戸締りをする。 木枠に薄いすりガラスがはめられただけの窓に囲まれた店内は、夜の寒さを予感させる日暮れの青っぽい影に染まっていく。 四畳半に上がった柊平は、普段は開けっぱなしの店と座敷を仕切るガラス障子を閉めた。 再びコタツに入り、ミカンを剥く。 「この家に、雪見障子は必要ないんじゃないか?」 店と反対側の庭に面した窓には、雪見障子がはめられている。 しかし、その雪見障子の隙間から見える中庭に、表のような雪はない。 先日のタヌキの一件で知ったことたが、この家に入るには、玄関から招き入れられることが基本である。 銀杏の葉も舞い込むことのない境界は、雪でさえ例外ではないようだ。
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