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「先ほどは失礼致しました。鏡子と申します」
見た目3歳児が三つ指をついて頭を下げる。
めでたく入室を許可された柊平と夜魅は、鏡の付喪神と対座していた。
「柊平知ってる?襖の鶴は壮大朗にも京介にも見えないんだよ?」
「あの襖はなんなんだ?」
見えない人には見えない襖。
そこに描かれた絵を答えた後、西の離れは柊平を弾かなくなった。
「試しの襖と呼ばれているわ。文字通り入る者を試すの。見え方はその者の資質によって変わるわ。鶴を見た人間は、時江が他界して以来よ」
顔を上げた鏡子が説明する。
「ん?ばあちゃんも見える人だったのか?」
柊平が生まれたとき、時江はすでに他界していた。
だから会ったことはないし、見える見えないの話も聞いたことがない。
「壮大朗に訊かないと厳密には分からないんだけど、全然見えないわけじゃなかったみたいだよ。ボクの声も時々聞こえてたし、何より、普通の家の人がこんな鏡を嫁入り道具に持ってこないよ」
「こんな鏡とは失礼ね。私は代々その家の女子を守ると言われて、受け継がれてきたのよ」
そう言うと、鏡子は円い漆塗りの手鏡を、桐の箱から出して柊平に見せる。
古い物のはずだが、上品で綺麗な鏡だ。
「そうなのか。人の姿をしている妖怪に会うのは初めてだな」
鏡と鏡子を見ながら、柊平は感心したように言う。
狐だったり狸だったり、猫だったり犬だったり。
とにかく喋る獣ばかり見ていた柊平には珍しい。
「ちょっと化け猫。あなたお目付け役でしょ?この若様、こんなんで大丈夫なの?」
「うるさいな。まだ色々これからなんだよ」
夜魅と鏡子は顔見知りのようだが、事あるごとに地味な小競り合いをしている。
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