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恐れられる必要はないと、柊平は思う。
紅白狐や親指狸のように、弱った妖怪が百鬼夜行路を通れば永らえられるというのなら、恐れられていては助けてやれない。
ただし、助けたいと思うのであれば、守れなければいけない。
「夜魅、あの雷獣はどうしてやればいい?」
「雷獣には人の言葉が通じないんだ。そもそも、落ち着かせないことにはどうしてやることもできないけどね」
話している間も、雷獣は薄紫色に光る電気を発散している。
家が燃えないのは、内側の境界を作っている撫で斬りのお陰だろう。
「そういえば、こないだの狸は中庭には入れなかったよな?」
訪ねてきたときに百鬼夜行路を通れない状態だった狸は、四畳半の座敷の手前で撫で斬りの境界に拒否されていた。
ならば、今中庭にいるあの雷獣は、本人次第では百鬼夜行路を通れるということだ。
「柊平、とりあえず撫で斬りと提灯を持ってきて。ボクが話してみるよ」
二人のやり取りを見ていた鏡子が、手のひらをスッと横に動かす。
タンッタタンッと開いた縁側の窓から、冷たい空気が流れ込んできた。
西の離れに外気が入るのは、何年ぶりのことか。
「夜魅、気をつけろよ」
柊平は、雷獣を見据えながら中庭に降りていく夜魅にそう言いうと、撫で斬りを取りに隣の建物へ入った。
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