14/24
前へ
/24ページ
次へ
「早急に空へ帰れ」 柊平が東の建物へ入ったのを確認すると、夜魅は低い声で雷獣に言い放つ。 雷獣は答えず、いっそう姿勢を低くした。 「人と暮らさぬお前に、百鬼夜行路は関係ないだろう」 ゆっくりと歩み寄る夜魅に、雷獣は電雷を発散する。 それは庭の飛び石を叩き、家を囲う内側の境界に当たり砕け散る。 夜魅は身軽な動きでそれらをかわし、池を囲む石の上に着地した。 夜魅はひそかに舌打ちをする。 人の言葉は解さないが、妖怪同士なら話せるはずだ。 しかし、雷獣は一向に返答しない。 雷獣は人とは相容れない種族。 人の姿をとる妖怪の危うさすらまだ理解しない柊平には、あまり対峙させたくなかった。 代替わり早々に死なれでもしたら、目も当てられない。 いっそのこと、柊平が戻る前に消してしまおうか。 夜魅の金色の瞳が冷たく光る。 ハラハラと舞い落ちる雪は、雷獣の纏う電雷と夜魅から滲み出る妖気で、白く細い渦を作った。 鏡子はただ静かに、紅い座布団に座ったままその様子を見ていた。 怯えるように唸る雷獣が、再び電雷を発散する。 それは真っ直ぐ夜魅へ向けられていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加