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「早急に空へ帰れ」
柊平が東の建物へ入ったのを確認すると、夜魅は低い声で雷獣に言い放つ。
雷獣は答えず、いっそう姿勢を低くした。
「人と暮らさぬお前に、百鬼夜行路は関係ないだろう」
ゆっくりと歩み寄る夜魅に、雷獣は電雷を発散する。
それは庭の飛び石を叩き、家を囲う内側の境界に当たり砕け散る。
夜魅は身軽な動きでそれらをかわし、池を囲む石の上に着地した。
夜魅はひそかに舌打ちをする。
人の言葉は解さないが、妖怪同士なら話せるはずだ。
しかし、雷獣は一向に返答しない。
雷獣は人とは相容れない種族。
人の姿をとる妖怪の危うさすらまだ理解しない柊平には、あまり対峙させたくなかった。
代替わり早々に死なれでもしたら、目も当てられない。
いっそのこと、柊平が戻る前に消してしまおうか。
夜魅の金色の瞳が冷たく光る。
ハラハラと舞い落ちる雪は、雷獣の纏う電雷と夜魅から滲み出る妖気で、白く細い渦を作った。
鏡子はただ静かに、紅い座布団に座ったままその様子を見ていた。
怯えるように唸る雷獣が、再び電雷を発散する。
それは真っ直ぐ夜魅へ向けられていた。
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