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その奇妙な店は、緩やかな坂の途中にある。 古い木造建築で平屋建て。 店の前を流れる水路は苔むした煉瓦積み。 その水路の上に架った、短いコンクリートの橋を渡った先に、店の入口がある。 店主はきっと、店の外観とよく似た古狸(ふるだぬき)のようなジイ様。 誰もがそう思って店の前を通り過ぎるだろう。 しかし、店の奥の四畳半にあるコタツでミカンを食べているのは、グレーのパーカーを着た少年。 百鬼(なきり) 柊平(しゅうへい)。 現在、形式上、この店の(あるじ)である。 「柊平、ミカン食べ過ぎじゃない?」 コタツから顔だけ出して小言を言っているのは黒猫の夜魅(よみ)。 尻尾が2つあって、人の言葉も話す猫又(ねこまた)という妖怪だ。 「まだそんなに食べてないだろ」 残り少ない冬休みを利用して、柊平は祖父の店に泊まり込んでいる。 勉強が捗るからなんてのは建前で、親の目がないというのはそれだけで気楽なものだ。 小言の多い猫がいるが、勉強しろとは言わない。 柊平は父が箱買いしてきたミカンを、コタツの上のカゴに盛る。 食べる。 カゴに盛る。 を、昼過ぎから繰り返していた。
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