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「時江がいた頃は、こんなに頑なじゃなかったんだけどね」
夜魅はコタツの中庭側から、顔だけ出して言う。
時江とは、壮大朗の妻で柊平の祖母のことだ。
「ばぁちゃんが?」
「うん。鏡は時江の持ち物だったから、時江が居なくなってからは引きこもってる」
「鏡が?引きこもる?」
「西の離れにね」
西側の建物は、2つに分かれている。
今居る部屋から廊下を渡って行ける8畳間は、身内が集まる時に客間として使うことが多い。
その北側には、他の建物とは繋がっていない小ぶりな建物がある。
夜魅の言う西の離れだ。
柊平はその中に入ったことはないが、庭から見る外観はこの四畳半とよく似ている。
ただ、そこはいつも木の雨戸が閉まっていた。
「余ってる建物じゃないのか」
東棟のように店に並ばない古物雑貨が詰め込んであるのだろうと思い、今まで気にも留めなかった。
しかし、この家にはまだ何かあるらしい。
「あ、そうか。柊平会ってみる?」
いい事を思い付いたとばかりに、夜魅が立ち上がる。
「会う?誰に?」
「時江の鏡には付喪神がいるんだ。この家の一番外の境界を作ってる」
「会ってどうするんだ?」
付喪神は百鬼夜行路を通らない。
柊平には、別に関係がないように思う。
「鏡と仲良くなれば、中庭の雪景色も見られるよ」
「いや、別にそれはそこまでじゃ·····」
前のめりの夜魅に対し、柊平は引き気味だ。
仲良くなれなかったら、どうなるのか。
触らぬ神になんとやらと、昔の人も言っている。
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