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「時江の鏡は、古い守り鏡なんだ。境界を守る以外にも、影見が出来るよ」
「かげみ?」
「前もって災いを知らせてくれるんだ。柊平はまだ未熟だから、味方にしておいても損はないと思うんだけど?」
その、前もって知らされる災いは、前もって知ったらかと言って対処できるものなのだろうか。
「味方になってくれるのか?」
「少なくとも、撫で斬りよりは安全」
刃物に比べれば、そりゃあ鏡の方が安全だろう。
未熟と言われたのは気に入らないが、否定は出来ない。
それに、長くこの家に居る夜魅が柊平に必要だと判断するなら、気は進まないが無下にもできなかった。
「分かったよ。これから行くのか?」
「普段ないようなことが起こる時は、予期しないことを連れてきやすい。早い方がいいかもね」
夜魅が言う”普段ないようなこと”というのは、積雪のことだろう。
柊平は、寒さだけが張り詰めた不自然な中庭に目をやる。
冬の夜は早い。
雪見障子の隙間から伸びた明かりの向こう、小さな離れのひっそりと佇む姿は、どこか寂しげに見えた。
「じゃあ、行くか」
柊平はため息のようにそう言うと、立ち上がって雪見障子に手を掛ける。
「ちなみに、西の離れへは、北棟からじゃないと入れないからね」
夜魅はそう言うと、隣りの6畳間から東の渡り廊下へと出ていく。
さっきまでの寒い寒いはどこへいったのか。
柊平は、鞄に付けている小さなLEDライトのキーホルダーを外すと、パーカーのポケットに突っ込んでその後を追った。
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