6/24
前へ
/24ページ
次へ
電気をつけても、人の出入りのない東の建物は何となく薄暗い。 柊平は中庭に面した廊下を歩きながら、目的の建物を眺めた。 目の前にあるのに、一番遠回りをしている不自然さ。 いかにも、この世のモノならざる者へ会う手順のようで、落ち着かない。 葉が綺麗に落ちてしまった紅葉の木の影さえ、不気味に感じる。 「柊平、早く」 明日の昼間にすれば良かったと柊平が後悔し始めた時、北の建物の入口で夜魅が呼んだ。 「分かってるよ」 柊平は気を取り直して、北の建物の戸に手をかける。 この建物には、電気がついていない。 小さな窓から入る月明かりが頼りだ。 だが、今夜は分厚い雪雲がいる。 柊平は戸を開けると、小さなLEDライトをつけた。 広い北の建物では、その小さな光はせいぜい手元しか照らさない。 「そっか。柊平は見えないよね」 ライトを反射して、足元にいた夜魅の金色の目が光る。 「猫ほどは夜目はきかないな」 「ちょっと待ってて」 夜魅はそう言うと、金色の目が小さな光の中から姿を消す。 闇にまぎれてしまえば、黒猫ほど見えづらい生き物はない。 柊平は、暗闇を移動する夜魅の気配を何となく目で追った。 ちょうど撫で斬りのある辺りで、跳ねるような気配が2度。 撫で斬りの左右に置かれていた、古い篝火台(かがりびだい)に火が灯る。 「それ、飾りじゃなかったのか」 炎のように見えるのに冷たい光を放つ篝火は不思議だったが、柊平は手元のライトをしまう。 「狐火(きつねび)みたいなもんだよ」 夜魅は、怪訝な顔をしていた柊平に言う。 それはいわゆる、火の玉ってやつじゃ…と思わなくもなかったが、さっさと奥へ行く夜魅の後を追った。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加