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電気をつけても、人の出入りのない東の建物は何となく薄暗い。
柊平は中庭に面した廊下を歩きながら、目的の建物を眺めた。
目の前にあるのに、一番遠回りをしている不自然さ。
いかにも、この世のモノならざる者へ会う手順のようで、落ち着かない。
葉が綺麗に落ちてしまった紅葉の木の影さえ、不気味に感じる。
「柊平、早く」
明日の昼間にすれば良かったと柊平が後悔し始めた時、北の建物の入口で夜魅が呼んだ。
「分かってるよ」
柊平は気を取り直して、北の建物の戸に手をかける。
この建物には、電気がついていない。
小さな窓から入る月明かりが頼りだ。
だが、今夜は分厚い雪雲がいる。
柊平は戸を開けると、小さなLEDライトをつけた。
広い北の建物では、その小さな光はせいぜい手元しか照らさない。
「そっか。柊平は見えないよね」
ライトを反射して、足元にいた夜魅の金色の目が光る。
「猫ほどは夜目はきかないな」
「ちょっと待ってて」
夜魅はそう言うと、金色の目が小さな光の中から姿を消す。
闇にまぎれてしまえば、黒猫ほど見えづらい生き物はない。
柊平は、暗闇を移動する夜魅の気配を何となく目で追った。
ちょうど撫で斬りのある辺りで、跳ねるような気配が2度。
撫で斬りの左右に置かれていた、古い篝火台に火が灯る。
「それ、飾りじゃなかったのか」
炎のように見えるのに冷たい光を放つ篝火は不思議だったが、柊平は手元のライトをしまう。
「狐火みたいなもんだよ」
夜魅は、怪訝な顔をしていた柊平に言う。
それはいわゆる、火の玉ってやつじゃ…と思わなくもなかったが、さっさと奥へ行く夜魅の後を追った。
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