7/24
前へ
/24ページ
次へ
北棟の1番奥。 篝火に照らされて浮かび上がるのは、金地の襖に描かれた牡丹の花。 柊平の見る限りでは、この家で1番華やかな(ふすま)だ。 「襖?夜魅、西の離れとここは繋がってないだろ?」 西の離れに渡り廊下はない。 この向こうは、外のはずである。 風雨に晒される場所に、襖はおかしい。 「向こうから見る限りはね。ちなみに、”見える人”以外にはこの襖も見えない」 夜魅がニヤリと笑う。 「今さらこれくらいで驚かない」 柊平はツンとして、さっきまで怖気づいていたのを隠すように、そっと襖に手をかける。 重い襖だ。 いや、単に古くなって滑りが悪いだけなのか。 片手では開けられず、柊平は両手をかけゴロゴロと引きずるような音を立てて襖を開いた。 中は四畳半の和室。 やはり、さっきまでコタツに入っていたあの座敷とよく似ている。 ただ、正面の壁は一面が木製の棚になっており、小さめの箱や巻物のようなもの、古い本が並んでいる。 向かって左は中庭に面しているはずだが、木の雨戸で見えない。 反対側には、丸い飾り窓に障子がはめられている。 その下には、文机と紅い座布団が置かれていた。 柊平は、そこで視線をとめる。 文机の上に、桐の小箱が置かれていた。 「あれか?」 「そう」 その箱からは、確かに妖怪のような気配がする。 それは夜魅とも違い、百鬼夜行路を通った妖怪達とも違う。 最近会った中で1番近いのは、悠真(はるま)と一緒にいる白い犬だ。 「気配がコマと似てるな」 夜魅が意外そうな顔で柊平を見上げた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加