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「許可なくレディの部屋に入ろうとするなんて、神経を疑うわ」
鈴の音のような声が、辛辣な言葉を発する。
見ると、文机の前の紅い座布団に、朱い被布を着た幼女が座っていた。
肩口で切り揃えられた黒髪と、意志の強そうな黒い大きな瞳は、その幼さには不自然なほどの美しさがある。
「鏡子、たまには外に出てきなよ」
夜魅が幼女に話しかける。
「時江がいないのに、外へ行く用がないわ。しつこい化け猫ね」
「時江の孫が、君と仲良くなりたいって言ってる」
その言葉に、幼女の視線が柊平に注がれる。
大筋では間違っていないが、率先して仲良くなりたいと言った覚えはないが、柊平はその視線に笑顔で応えた。
「百鬼 柊平です。こんにちわ」
「時間的にこんばんわでしょ。時江の孫はバカなの?」
柊平の笑顔が思わず引きつる。
「柊平はバカじゃないよ。時江の孫だよ?」
負けじとツンとして夜魅が言う。
「なら、襖の絵柄は何だったかしら?」
試すような視線が再び柊平を捉える。
足元の夜魅を見ると、今開けた襖を顎でしゃくる。
子供にバカ呼ばわりされ、ネコに顎で使われるとは、とんだ厄日だ。
「金地の襖。花は牡丹。花びらのフチから花の中央に向かって、桃色からだんだん白に変わってる。それから、鶴が2羽いる」
「鶴が見えるの?」
鏡の付喪神は、着物の袖で口元を覆い驚いた表情を見せた。
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