探偵ごっこ(1)

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「切り裂かれたって、知らないんだからね。絆創膏が二枚……、いや、一箱あっても助からないと思うな」  上目遣いになった浮羽が、真っ青な空を見あげていた。その表情は、絆創膏がいかに万能なのか、雄弁に語りだしそうだ。 「の信者なの? もし、そんな集団があればだけれど……」 「ふふ。さあ、どうでしょう」浮羽が、口角をあげた。「絆創膏様、神のご加護を!」  僕は、その応えを流すようにして、街並みを眺める。  僕らが暮らしている大分県別府市は、九州北東部に位置する温泉観光地だ。扇状地で、海岸線から山麓まで長い傾斜がつづいている。  その坂を覆うようにして町が造形され、高台に登れば、町の至るところから湯煙が立ち昇っている風景を観ることができる。
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