弓道女子とストーカー(1)

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弓道女子とストーカー(1)

 弓道場の床は、ひんやりとしていた。  桜井浮羽は、足の裏に伝わる冷たさが、躰に浸透していくのを感じる。  熱くなっている躰から、床に向かって温度が抜け落ちていき、その代わりに冷たい冷気が登ってくる。そんな感覚だ。  真っ直ぐ、前を見てみる。二十八メートル先にある的に、集中した。  弓道衣から伸びる細い腕が、引き締まる。掌で、しっかりと弓を握った。そして、離れ。  空気を裂くような音と共に放たれた矢が、的の中心から大きく外れた位置に刺さっていた。  残心を終えて、溜息をつく。 「……今日は、どうも、調子が悪いな」  その理由は、よく分からない。別段、調子が悪くても困りはしないのだけれど。  そうやって、射位を離れようとした時だ。
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