サキちゃん(3)

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サキちゃん(3)

 弓道場が見渡せる位置にある木の陰に隠れて、『サキちゃん』は、口角を上げていた。 「我慢、我慢だ……」  獲物を目の前にして、ぎりぎりまで飛び出したい気持ちに堪える、獣のような心境だ。  視線の先に、弓道衣を着た女がいた。練習を終えたのか、弓道場を出て行こうとしている。  そこで一度、『サキちゃん』は、女から視線を外す。地面に、視線を落とした。揺れる木漏れ日を見る。それが、催眠状態に誘導しているようで、心地が良い。  昨日のことを、一目惚れした女性に出会った瞬間のように、思い出していた。  ホットストリートやよいの近くで会った、一組の、高校生らしい男女のことだ。  その後を、『サキちゃん』は、追った。
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