六人目(1)

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 何かが、視界の端に入った。前を歩く会社員が、慌ててそれを避ける。忌まわしい物でも見るかのように、視線を地面に向けていたが、立ち止まる事はなかった。それに倣うように、別の人も避けて歩く。 「猫だ、かわいそう」  それは、三毛猫の死骸のようだった。 「寿命だったのかな」と、思いながら近づいたところで、その考えを否定する。 「血……」  赤い染みが地面に広がっているのが、視界に入ったからだ。気の狂った者が、遊び半分で痛めつけたのかもしれない。 「酷い事をするなあ……」命に値札でも付いていると、思っているのだろうか。  その時は、「怖いなあ」と、ただ通り過ぎただけだった。それなのに闇が訪れた今、その光景が脳裏に浮かび、早足になってしまう。
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