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弓構え。カーボン製の矢を番えて、弦を取り掛け、物見を定める。
打起こし。空気を撫でる様にそっと、音もなく、弓を持ちあげた。
引分け。弓を引き下ろしながら、細い腕で、力強く、引く。
会。引ききり、狙いを定めた。時を止めたように、微動だにしない。
離れ。……矢が、放たれる。一瞬の空気を切る音は、もう戻っては来ない。
そして、残心。
的の中心を僅かに外して、矢が刺さっていた。浮羽は、無心のまま射位から離れる。的の中心近くに矢が刺さったことに、何も感じなかった。
そこに林檎でもあって、その中心を射抜くことが出来ていれば、少しは嬉しいのかもしれない。
弓道を続けているのは、矢を放った瞬間の、この世界からあっという間に消えていく音が好きだからだ。
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