探偵ごっこ(2)

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 弓構え。カーボン製の矢を番えて、弦を取り掛け、物見を定める。  打起こし。空気を撫でる様にそっと、音もなく、弓を持ちあげた。  引分け。弓を引き下ろしながら、細い腕で、力強く、引く。  会。引ききり、狙いを定めた。時を止めたように、微動だにしない。  離れ。……矢が、放たれる。一瞬の空気を切る音は、もう戻っては来ない。  そして、残心。  的の中心を僅かに外して、矢が刺さっていた。浮羽は、無心のまま射位から離れる。的の中心近くに矢が刺さったことに、何も感じなかった。  そこに林檎でもあって、その中心を射抜くことが出来ていれば、少しは嬉しいのかもしれない。  弓道を続けているのは、矢を放った瞬間の、この世界からあっという間に消えていく音が好きだからだ。
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