探偵ごっこ(2)

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 夏の残りを忘れさせてくれる程に、心地よいものだった。汗が、あっという間にひく。寒いぐらいだ。  その足で浮羽は、文庫本が陳列しているコーナーに迷わずに進んだ。ミステリーを集めている場所に、予想通り、ワカちゃんが立っている。  文庫本を手にしていた。紺色のジーンズに、白いシャツという簡素な服装だ。本に集中しているのか、近づいて行く浮羽に気づいた様子はなかった。  浮羽は、細い指でその肩をつつく。ようやく、ワカちゃんが振り返った。 「ああ、早かったね。お疲れ」と、気の抜けた言い方をする。 「本屋さんで電話を使うのは、良くないと思う」と、浮羽は微笑んだ。「迷惑行為だね」  ワカちゃんが、手に持っていた文庫本を棚に戻した。
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