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それは、浮羽も読んだことのある、古典的なミステリーだった。
「実を言うとね、僕は、小声なんだよ」
浮羽は、整然と並べられた文庫本を眺める。大きさの等しいものが揃えられているのは、見ていると心地が良かった。
一つでも大きさの違う物が混ざっていると、つい並べ替えたくなってしまう。
書店をゆっくりと見回してみる。天井から吊るされた色鮮やかな広告が、エアコンの風に揺れていた。右に左に、実に忙しそうだ。
「ねえ、行かないの?」と、浮羽は訊ねた。
「えっ? デート?」
「……なに言ってんの、犯行現場だよ」浮羽は、片目を瞑る。
「さすがに今日は、野次馬が多いんじゃないかな? 警察も居るだろうから、簡単には近づけないと思うんだけれど」
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