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万引きは葬る(1)
「全く、騒々しいな」
堂本次郎は、深く溜息をついていた。「本屋の側では、静かにしてもらいたいものだ」
個人で経営している堂本書店は、別府駅前通りの通り沿いに面していた。
すぐ近くにある十字路の信号機が変わる度に発進する車の、生まれては消えていくリズムが、普段は規則正しく、心地が良い。そのリズムが、今は崩れてしまっていた。
入り口近くにあるカウンターには、レジスターを置いていた。そのカウンターの中で、木製の丸い椅子に、堂本は腰掛けている。その姿は、疲れ切った狸の置物のようだった。
癖のように、大きく突き出した、丸い下腹部を触る。
別府駅前通りに面しているガラス越しに、外の様子を観察した。
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