万引きは葬る(1)

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 だが、先ほどから見ている限り、これといった変化はない。  ホットストリートやよいで、人が刺された。  その件に関しては、堂本もニュースで知っている。  それが、この町を騒がしている切り裂き魔『サキちゃん』の仕業ではないか、というおまけつきだ。それだけでも、野次馬を集める要素としては十分だろう。  堂本は、店内を見回してみる。 「それに比べて、うちの方は……。もっと本を読めっての」  向かい側とは対照的に、閑散としていた。立ち読みをしている客が、数人いるだけだ。 「まあ、万引きしようとする輩を見逃すことはないだろうけれどな」と、肩の力を抜く。それによって、余計に狸らしさが増した。  視線を、店内の壁の一点に移す。道路側ではなく、店の奥にある壁だ。
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