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サキちゃん(2)
ソルパセオ銀座を歩きながら、『サキちゃん』は放心していた。
細い脚が、自動的に前に進んでいく。まるで、ゼンマイ仕掛けの、ブリキの人形のようだ。そのゼンマイを巻き直そうとしてくれる人は、一人もいない。
ほんの数分前、一組の若者とすれ違った時の記憶を、『サキちゃん』は、大好物の味を反芻するかのように思い出していた。
「高校生ぐらいか?」
これまでにない感覚は、容姿端麗な女の方を見た瞬間に、それは起きた。
太ももの辺りから、鼓動を感じたのだ。
それは、隠し持っている赤い刃のハサミから生じたものだった。人魚の彫刻が、魅了する歌を唄ったかのように皮膚を震わせ、下腹部から脊髄を通り抜けて、脳にまで達する。
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