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口が勝手に動いていた。それは、『言わされた』という感覚に近い。
「……ミヤビ」
その名前に、『サキちゃん』は心当たりがあった。それでも、つい先程の、容姿端麗な女の記憶はない。
「……いや、よく似ている気がする」
いつの間にか、立ち止まっていた。生まれた欲望に身動ぎ、進めなくなったと言った方が正しいだろう。
周囲を素早く確認する。前後に人の姿はない。昼間でも、閑散とした通りだ。
おもむろに、穿いているフレアスカートを捲り上げた。太ももに巻いているベルトからハサミを取り出す。それを、じっと見つめた。
ハンドルの部分に彫りこまれた艶かしい人魚が、微笑みかけている。刃の部分は、相変わらず薄い赤色だった。
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