サキちゃん(2)

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 口が勝手に動いていた。それは、『言わされた』という感覚に近い。 「……」  その名前に、『サキちゃん』は心当たりがあった。それでも、つい先程の、容姿端麗な女の記憶はない。 「……いや、気がする」  いつの間にか、立ち止まっていた。生まれた欲望に身動ぎ、進めなくなったと言った方が正しいだろう。  周囲を素早く確認する。前後に人の姿はない。昼間でも、閑散とした通りだ。  おもむろに、穿いているフレアスカートを捲り上げた。太ももに巻いているベルトからハサミを取り出す。それを、じっと見つめた。  ハンドルの部分に彫りこまれた艶かしい人魚が、微笑みかけている。刃の部分は、相変わらず薄い赤色だった。
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