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私の事務所を訪れた女性は、ひどく思い詰めた様子でした。
しかし、よく見られる霊障に悩まされている様子でもありません。
話を聞いてみると、彼女の身に起きた悲劇が原因にありました。
その一か月前、彼女は幸せの絶頂にありました。スポーツジムで知り合った彼が、二年間の交際を経てプロポーズしてくれたのです。もちろん、彼女は喜んで承諾し、婚約者となった彼と二人で、結婚に向けて着々と準備を進めておりました。
ところが、その婚約者が交通事故で急逝してしまったのです。
幸せの絶頂から一気に絶望の底に落とされた彼女は、すっかりと生気を失ってしまいました。
それと同時に、彼女の身には病気やケガ、大切にしていた物が壊れるなど、様々な不幸が訪れるようになりました。
その様子を見かねた彼女の親友は、彼女にある話をもちかけました。
それは、亡くなった婚約者の霊を呼び出し、話をすること。その親友は霊能者ではなく、霊の存在を信じてさえいませんでしたが、たとえ嘘でも彼の言葉として彼女を励ませば、きっと彼女は立ち直れると考えていました。親友は、何とかして彼女に元気になって欲しかったのです。
親友と彼女は、婚約者が亡くなった事故現場を訪れ、親友は形ばかりの降霊の儀式を行いました。そして、口寄せと称して彼のふりをして、彼女に強く生きるよう優しく励ましたのです。彼女は涙を流して喜び、親友が望んだように、再び元気を取り戻しました。
しかし、しばらくすると、彼女はもう一度彼と話をしたいと願うようになりました。
あまりに強くせがまれて、親友も渋々承諾しますが、あまり踏み込んだ話をすれば嘘だとバレてしまう。親友は、当たり障りのないことを手短に語って終わりにしましたが、それでは彼女は納得しない。
もう一度、もう一度と、何度も言われ続けて、ついに親友は真実を白状しました。
ところが、彼女は諦めるどころか、本当に彼の霊を降ろせる霊能者を捜しはじめたのです。
話を聞いて、私は依頼をお断りしました。
何故なら、彼女が求めている婚約者の魂は、既にこの世を離れていたからです。
降霊したとしても降りて来るのは彼のフリをした邪な霊ばかりでしょう。
私がそのように説明すると、彼女はがっかりした様子で、帰って行きました。
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