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それから三日後、私の前に悲しそうな男の霊が現れました。
霊とは魂の残像。未練や怨み、怒り、悲しみなどの思いを強く残した者の念が、解消されずにこの世に留まったものです。
その男の霊は、涙を流しながら私に語りかけてきました。
「どうか、彼女を救ってください」
私の頭の中に、あの女性の顔が浮かび上がりました。
一瞬、この人が事故で亡くなった婚約者かと思いましたが、その顔は写真で見た彼の顔ではありません。何より、彼の魂は既に正しく旅だっており、霊がこれほどはっきりした姿で現れることもないはずです。
私は説明を求めました。
彼女は、男のことを知りません。
何故なら、彼女と男との接点は、彼女がたまに行っていたスーパーにしかなかったからです。
男は、そこで店員として勤めておりました。
店内で彼女を見た男は、一目で恋に落ちました。
たまにしか顔を見せない彼女に男の想いは募るばかりとなり、それは崇拝の域にまで達しておりました。
そんなある日、男は彼女を見つけます。しかし、その横には親密そうな見知らぬ男性の姿が。
引き裂かれんばかりの悲しみや嫉妬、喪失感などが男を苛みました。
心の隙間を埋めることのできない男は、仕事にも実が入らず、鬱屈とした日々を過ごしました。
そして、ある日、ぼんやりと町を歩いていた男は、赤になった信号に気付かず、猛スピードで走るトラックに轢かれて、その生涯を閉じました。
その場所とは、まさに彼女の婚約者が亡くなった場所、婚約者の事故は、男の行き過ぎた恋慕の想いが呼び寄せたものだったのです。
ただ、男は決して婚約者を呪っていたわけではありませんでした。
あるのは叶わぬ彼女への想いだけ。
しかし、この世に残った未練に邪なモノたちが集い、それが忌まわしい悲劇を起こすに至ってしまったのです。
結果として彼女を不幸にしてしまったことに、男は更に苦しみました。
しかし、穢れを纏い、悪霊と化した男が、何とかしようとすればするほど、彼女には不幸が降りかかります。
そして、ついに彼女の生命に危険が及ぶに至り、私の前に現れたということでした。
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