不親切な親切

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 大学入学と同時に一人暮らしを始めてもうすぐ一年になる。  なんて快適なんだろう。車がなくてもバスや地下鉄でどこへでも行ける。実家は1時間に一本しかバスの出ないような片田舎だったのでマイカーを勧められたけど、気ままに外へ出てあまり待つことなく公共交通機関を利用できる今となっては車の必要性を感じない。  友達と遊んだり買い物したり。大学生活に欠かせない欲求も簡単に満たせる。  初めは多少不安だった一人暮らしも、今では楽しい一色。面倒な近所付き合いもない。この街では隣人同士の顔なんてそうそう知り合うことがない。  実家の地域は常に他人の目があり、どこか監視されているような息苦しさがあった。彼氏と家の前でバイバイのキスをしていた年下の子が井戸端会議の餌食になってヒソヒソ言われていた。昔よく遊んだ子だったので気の毒だった。そんなことで悪く言わなくても、と、大人にも嫌悪感を覚えた。  でも、一人暮らしを始めた土地にはそんな圧迫感がない。他人が何をしていても関係ない。自由。良くも悪くもドライで、私にはそこが心地よかった。この暮らしが気に入っている。  春休み、地元から訪ねてきてくれた幼なじみの親友と案内がてら街を歩いていると、信号待ちで見知らぬおばあさんに声をかけられた。 「この辺に良い美容院はありますでしょうか?」  白髪で和服を着た、年老いているのにどこか上品な人だった。一人で歩いていたのだろうか。どこから来たのだろう。  近所の人かもしれないけど、そうじゃないかもしれない。 「美容院だったら……」
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