「またね」

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 まだ幼い私には恋心と呼べるような気持ちは無かったのだが、家に帰っても、お兄ちゃんと一緒にいても、「なおくんがねー」と、彼の話をよくしていた。  両親は「アカリはなおくんの事が大好きなのねぇ」と笑っていたけれど、お兄ちゃんはただ黙って聞いているだけだった。  多分、その頃からともくんの心は徐々に歪んでいったんだと思う。 「なおくんとにぃにとどっちが好き?」とか、「なおくんを名前で呼ぶなら、にぃにも、ともくんって呼んで欲しいな」とか。  やたらとなおくんと張り合うようになったのも、今にして思えば、本気の嫉妬からだったのだろう。  それでも、まだ、彼は強行手段に出ることはなかったのだが、事件は彼が高校生に上がり、私が来年、小学生という時に起きた。  学生結婚という身分では、新婚旅行すらまともに行けていない両親に、ともくんが「ボク、一人でも留守番ぐらい出来るから、二人で旅行に行って来たら?」と提案し、遠山夫妻もその言葉に甘えた。  成績もよく、真面目なともくんだからこそ、遠山夫妻も留守番を任せたのだろう。  けれど、家に自分以外誰もいないチャンスをつくることを、彼はずっと狙っていたのだ。
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