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狂ったように話し続ける彼の耳には、私の声は聞こえていない。
一歩一歩彼が近付く度に、後ろへ下がる私は、イヤイヤをするように頭を左右に振る。
「さぁ――アカリ。もう逃がさないよ」
「イヤァァッ」
ジリジリと詰め寄り、そして飛び掛かって来た彼に対し、大きな悲鳴を上げて寝室へと逃げ込んだ。
「なんで逃げるんだい?」
ドンッ!
「ヒッ」
扉を叩く大きな音に、ビクリと肩を震わせる。
ドンドンドンドンッ
「なんでここを開けないんだっ! 悪い子はお仕置きだぞっ!」
「いやぁっ! やめてぇぇぇっ」
壊れるんじゃないかというほど、ドアが激しく叩かれ蹴られるのを、内側から必死で押さえる。
それでも、男と女とでは力の差は歴然。
蝶番は段々と破壊され、扉本体もミシミシと言い出した。
「早く開けないと、ドアがぶっ壊れるぞ」
もう既に壊れつつありますとは冗談でも言えない状況。
万事休すかと思った瞬間、「警察だっ! 動くなっ」という勇ましい声と共に、慌ただしい靴音が響き、そして、扉にドンッと今まで以上に重々しい音が鳴り響いた。
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