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情けないとか恐怖とか嬉しさとか、そんな感情が湧き上がって出てしまった涙は止まらなくて袖はすっかりと色を変えてしまう。
「どうして、百合ちゃんが謝るの?」
流れ出てくる涙を指ですくってくれる冬馬さんは、座っている私と目線を合わせて話をしてくれる。冬馬さんの右後ろには真斗君が心配そうにこちらを見つめてくれている。
「謝るのは俺の方だ、ごめん、俺のそばにいたせいで変なのに目つけられちゃって……」
違う、真斗君は何も悪くない。すぐに否定の言葉を言おうとしたけどその口は冬馬さんの人差し指で止められてしまう。
「ごめんね、そもそも僕がきちんと教えてあげれば良かったね。てっきり、あんなサークルなくなったと思っていたから油断しちゃった……」
冬馬さんは息を漏らしながら、私の頭をひと撫でして立ち上がった。
「あのサークルのことを知っていたんですね」
「あれは、僕が入学当初に出来たサークルでね。出来た当初もちろん僕も誘われたんだけど、生憎、家のこととかもあったから断っていてね。噂では、僕がそのサークルのメンバーだって吹聴して女の子を捕まえたり、真面目にいけばなをやりたい子からお金を巻き上げたりしていたみたい」
私はまんまとその策略にのせられたってことだよね。
きっとあのまま、あの部屋に入っていったら今頃……
「卒業頃には犯罪にまで手を出しているっていう噂はあったけど、僕も卒業するし、自然となくなると思ったけど……やっぱりああいうのはなくならないね」
「警察とかに相談は?」
「校内の問題だからね、後は下手に騒がれて家に迷惑はかけられないでしょ?」
その問いに真斗君は、そうですねと悔しそうな顔をする。
関係がないといっても、名前を使われてたらいくら否定しても無意味なことで、きっと世間に変な噂が広まってしまう。それも分かっていたから冬馬さんは見て見ぬフリを続けるしかなかったんだ。
「こんなことなら、百合ちゃんにおすすめしなければ良かったのにね。ごめんね、僕のせいで」
悲しげに苦笑をもらす冬馬さんを見て胸が締め付けられてしまう。
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