従兄妹

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   "ここはいつも手が行き届いてるわね"  "金持ちの道楽さ"  門に入って行くと大きな池が目に飛び込んできた。  ちょうどその時ちらちらと雪も降り始めて、私の目には幻想的なものに見えていた。  先ほどまでの恐怖心は消えて、あそこに何がいるのではと探究心の方が強くなる。  けれども父は絶対に私の手を離さなくてそこへ行くことは叶わなかった。 「人に会ったら何て言うか覚えてる?」  大きな池を横目に歩くと玄関が現れて、父はチャイムを押した。  扉の奥からははーいっと優しそうな女性の声が聞こえてきた。  玄関を開けてもらう間、母は私に聞いてきた。  ここ数日に何度も言い聞かせられた言葉  意味なんてわからないけど言われがまま覚えた言葉を口にする。 「明けましておめでとうございます」  そう言うと、そうねっと頭を撫でてくれた。  そしてガラガラと音を立てて玄関が開くと割烹着姿のおばさんが出迎えてくれて私がさっき言った言葉を言っていた。  家の中からは何だか不思議な匂いがする。  木の匂いや煙の匂いおいしそうな匂い、嗅ぎ慣れない匂いに緊張してしまう。 「あら、大きくなったのね~」  おばさんは屈んで私に目線を合わせて話しかけてくれた。 「ほら、ご挨拶は?」  母に言われて慌てて口走る 「明けまして、おめでとうござ い ま す… …」  なんだがだんだん恥ずかしくなってしまい最後の方はおばさんと目を合わせられなかった。  そんな風にしか出来なかった私におばさんは上手ねと頭を撫でてくれる。  母はそんな私にきちんと目を見て言いなさいと叱り、おばさんにすみませんと言っていた。  そしておばさんに勧められるまま中へと入って行く。  
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